スイスの通貨であるフランはFXでは「CHF」と表記されます。フランとアメリカのドルの組み合わせは「USD/CHF」、フランとユーロの組み合わせは「EUR/CHF」、フランと日本円の組み合わせは「CHF/JPY」です。
【フランは世界有数の安全資産】
フランは価値が非常に安定した安全通貨という位置付けです。
その理由は以下の2つです。
「スイスが永世中立国である為、戦争などの国際的な問題の影響でフランの価値が急落するリスクが低い。」
「財政的に非常に優秀で安定しております。債務が少ない事に加えて国民1人辺りのGDPが高く、債務が年間GDPだけで賄えているので現在の債務が少ないだけでなく、これから先も債務が増加するリスクが低く、健全に経済成長して行く事に期待出来ます。」
【輸出中心の経済構造】
スイスは貿易黒字国であり、輸出依存度の高い国です。主な輸出先の購買力がスイス経済に大きな影響を及ぼします。ユーロ圏が主な輸出先であり、特にドイツへの輸出が最も多いのが特徴です。スイスの経済状況に加えてユーロ圏全体とドイツの購買力の高さも把握しておきましょう。
主に以下の経済指標を確認します。
【スイスの経済指標】
「GDP」
一定期間内で国内で生み出された物やサービスの付加価値の大きさ。
「貿易収支」
貿易によって得た収益の多さ。輸出依存度が高いスイスでは特に重要です。
「SVME購買部協会景気指数(PMI)」
スイスの製造業の景気の良し悪しを判断出来る経済指標。50が基準値であり、50を上回っていれば景気が良いされます。
「KOF先行指数」
スイスの幅広い分野の景気の良し悪しを判断出来る経済指標。PMIが現時点での調査なのに対してこちらは6ヶ月から9ヶ月先の景気動向の調査であり将来の景気の良し悪しの判断となります。
【ユーロ圏・ドイツの経済指標】
「消費者物価指数(CPI)」
個人が物やサービスに支払う物価です。物価は商品が良く売れている時は上昇し、売れ行きが悪い時は低下する傾向にあります。景気が良い時程購買力が高まり良く売れる様になります。
「調和消費者物価指数(HICP)」
EUによる独自の基準によって算出された消費者物価指数(CPI)です。 ユーロ圏全体を見る場合はHICP、ドイツを見る場合はCPIを確認します。
「生産者物価指数(卸売物価指数)(PPI)」
企業間取引の物価です。こちらもCPIと同様です。
「ZEW景況感指数」
ドイツの景気の良し悪しを数値化した指数です。経済の専門家や投資家に対してドイツの経済状況に関するアンケートを行って景気の良し悪しを判断します。50が基準値であり、50を上回っていれば景気が良いされます。
「IFO企業景況感指数」
ドイツ企業に対してドイツの経済状況に関するアンケートを行い、景気の良し悪しを判断する経済指標です。2015年の結果を100として数値化されます。
【低金利政策】
貿易は商品を売る側の通貨で支払いをするのが一般的です。
例えばドイツがスイスから輸入する場合はスイスの通貨であるフランを使用してドイツがスイスに支払いをします。
自国の通貨価値が高いという事は他国から見れば「その国の商品は高い」という事になります。当然高いと商品は買い難く、安いと商品は買い易くなります。
輸出依存度の高い国であるスイスは自国の商品が高過ぎて買ってもらえない事は大きな痛手です。その為、スイスは自国通貨高を嫌う傾向があります。
通貨価値を下げる有効な方法は中央銀行による利下げです。スイスは長年に渡り低金利政策を維持しております。
毎年3月・6月・9月・12月の中旬に政策金利が発表されます。
【注目すべき商品価格は金(ゴールド)】
スイスは世界屈指の金保有国である事に加えて金もフランと同様に安全資産という位置付けであり世界情勢が不安定の時や世界全体が不景気の時に買われ易く、金のレートが上昇傾向の時はフランのレートも上昇傾向となり易く相関性が高いと言えます。
特にフランの長期投資を行う際は金のレート及びその推移をチェックしておきましょう。
【フランでのトレードの基本戦略】
スプレッドが広めである事と通貨価値が高めの割に他のメジャーな通貨よりも値動きの頻度や値幅がやや小さめである事からスキャルピングはお勧めしません。
低金利である事からスワップ狙いでフランの買いを長期保有するのはお勧めしません。低金利である事を活かして「フラン売り・高金利通貨買い」をしようにもフランは価値が非常に安定して高い通貨である事からフランを売って価値の安定性に不安のある新興国の通貨を買うのもお勧め出来ません。
普段から他のメジャー通貨を差し置いてガンガンフランで取引するのでなく、フラン特有のメリットが際立っている環境の時にフランでトレードするのが良いでしょう。
フランでトレードをするなら安全資産であるという点に注目して世界情勢が不安定の時にフランを買う、又は世界全体が平和で好景気の時にフランを売るのがお勧めです。
それ以外の方法としてはドルなどのメジャー通貨の金利が高い時に「フラン売り・メジャー通貨買い」をするのが有効です。
【通貨ペア別トレード戦略】
【ドルフラン USD/CHF】
一般的に高金利通貨と言えば新興国の通貨というイメージがあるのではないでしょうか。
高金利という点は魅力的ですが、通貨価値が安定せず突然暴落するリスクが高い新興国の通貨を長期保有するのは得策ではない場合が多く、為替差益を狙うのも困難です。その点、信頼性の高さではドルは長期保有するにはもってこいの通貨です。つまり「ドルフラン」はドルが高金利の時に翌営業日以降までポジションを保有する事前提で買いポジションを保有するのが良いという事です。
ドルは世界で最も広く使用されている通貨であり、信頼性・利便性共に極めて高い基軸通貨です。価値が安定して高い暴落のリスクが低い通貨であり、暴落しても暴落前の水準に戻り易いという特徴があります。ドルはリスクが高いから高金利に設定されているという訳ではなく、長期保有に安心感のある通貨です。
ドルの金利とフランの金利を比較してドルの金利が大きく上回っているか確認する事に加えて主に以下の4つの点も確認した上で「ドル買い・フラン売り」のポジションを保有します。
「アメリカが好景気である」
「世界情勢が安定している」
「アメリカの中央銀行であるFRBがタカ派(高金利を保つ事や利上げの実施を示唆)である」
「スイスの中央銀行であるSNBがハト派(低金利を保つ事や利下げの実施を示唆)である」
以下の点も伴っていれば尚良しです。
「金(ゴールド)の価値が中長期で伸び悩んでいる」
「ドル指数(フランを含む主要通貨に対するドルの強さ)が中長期で上昇傾向」
「スイスの経済状況の悪化」
【ユーロフラン EUR/CHF】
スイスはユーロ圏の経済と関わりが深く、有事の際はユーロ下落のリスクヘッジとしてフランが買われ易く、有事の事態が解消されるとフランを売ってユーロを買い戻す動きとなります。
スイスは地理的にユーロ圏の国々に囲まれており、貿易が盛んに行われている事や観光客が多い事に加えてスイスの中央銀行が大量にユーロを保有している為、ユーロとの連動性が高い。その為、平時ではユーロと同じ方向へ動き易い傾向があり、あまり大きな方向感はでません。しかし有事の際はユーロと逆方向の動きになり易い傾向があります。
スイスは永世中立国である為、戦争などの国際的な争いが起きても一部の勢力に肩入れする事はありません。その為、貿易が滞ったり戦争による攻撃を受けるといった悪影響は受け難く、スイスの財務状況が健全であるという事もあって有事の際はフランが買われ易くなります。
一方でユーロ圏はスイスの様に上記の条件を満たしておらず、戦争となれば一部の勢力に肩入れし、その敵対国から攻撃を受けたり、参戦や援助によって物資・資金を大きく消耗したり、貿易が滞るといった悪影響を被るリスクがあります。
但し、単純に有事の際に「ユーロ売り・フラン買い」を行えば良いという訳ではありません。その有事がどの程度ユーロ圏に関わっているかを見極める必要があります。主に以下の点を確認します。
「その有事に直接関与しているか」
ユーロ圏と殆ど貿易を行っていない国の内戦などのユーロ圏の国々に被害が及ぶリスクが小さい有事ではユーロ売りでの反応には期待出来ません。
「対立している勢力が存在する場合はユーロ圏の立ち位置はどちらか」
ユーロ圏がついた側がユーロ圏を充分にサポート出来る強国である事やその国が有事を早く小さな損失で終了させる方向で進める穏健派である事が重要となります。サポートは「敵対国の攻撃から直ちに守ってくれるか」「物資を充分に確保出来るルートの保証」「資金・物資の提供」に注目します。
「有事の中心国が資源輸出国であるか」
資源輸出国が多大な被害を受けたり、資源輸出国との関係が険悪化すれば輸入依存度の高い国の経済状況の悪化に繋がります。
例えばロシアは天然ガスを大量に輸出しております。ドイツは天然ガスを輸入に頼っている国であり、ユーロ圏最大規模の経済大国です。という事はロシアとドイツの関係が険悪化してドイツ経済の悪化が見られるとユーロの売り要因となります。
「有事の規模は大きいか・長引きそうか」
政府関係者の声明文を見て一部の意見の食い違い程度のものなのか、それとも軍隊を率いて実際に侵攻を開始したなどの明白な行動に出たかどうか、穏便に済ませたい意向が見て取れるかを確認します。
【フラン円 CHF/JPY】
フランと円はどちらも安全資産という位置付けであり、世界情勢の悪化を理由にどちらか一方が強く買われる・売られるという事には期待出来ません。注目すべきは金融政策の方向性の違いと財務状況の推移です。
スイスと日本はどちらも政策金利が低金利に設定されておりますが、その思惑は異なります。
スイスは輸出依存度の高い国である事から他国がスイスの商品を買い易くする為に自国の通貨価値を下げようとする傾向があります。特に取引量の多いユーロ圏の国々に買ってもらい易くする為にユーロフランのレートが意識されております。
日本は長期間経済成長が出来ていない事から景気刺激策として低金利でお金を借りれる様にして市場に出回る円の供給量を増やして景気回復を目指しております。
2024年5月時点ではスイスの財務状況は健全であるのに対して日本は厳しい状態です。
政策金利はスイスが日本を上回っています。 スイスはある程度柔軟に変更出来る状態であるのに対して日本は現状から政策金利を大幅に変動させるのは困難な状態です。
以上の点から「フラン買い・円売り」推奨ですが、いつまでもこの状況が続くとは限りません。状況が変化すれば当然とるべき対応も変化します。変化に早く適切に対応出来る様にする為に以下の点に注目します。
【スイス】
「政策金利及びそれに関する声明」
現在の政策金利の高さに加えて中央銀行が今後どの様な思惑で政策金利をコントロールするつもりなのかを確認します。
「消費者物価指数」
数値が高くインフレが進行していれば利上げの必要性が高まります。但し、不景気の中で利上げすれば深刻な景気後退を招く事になり兼ねないので「SVME購買部協会景気指数(PMI)」や「KOF先行指数」といった景気の良し悪しを判断出来る経済指標も合わせて確認しましょう。
【日本】
「政策金利及びそれに関する声明」
「日銀総裁定例記者会見」
日銀総裁が金融政策に関する自身の考えを述べた上で記者達の質問に答えます。
「日銀短観(企業短期経済観測調査)」
約1万社の日本企業に対してアンケートを行い景気の良し悪しを判断する経済指標です。日銀が適切な金融政策の運営の為に実施していると公言しており「政策金利及びそれに関する声明」に多大な影響を及ぼします。
【まとめ】
スイスは永世中立国であり、有事の際に買われ易い。
通貨の価値が安定して高い。
フランは金と相関性が高い。
輸出依存度が高い。貿易黒字国。自国通貨高を望んでおらず政策金利が低い。
ユーロ圏の経済状況の影響を大きく受けます。最大の貿易相手国はドイツ。
平時にはユーロと同じ方向へ動き易い一方で有事の際はユーロと逆方向の動きになり易い。
スプレッドが広めでスキャルピングには不向き。
値動きの大きさは他のメジャー通貨よりやや小さめ。マイナー通貨よりはかなり大きい。
#この記事は筆者(tetsuryu)の独自解釈であり内容の正確性を保証するものではありません。